石塚 しのぶ 氏インタビュー!
Dyna-Search, Inc.(ダイナ・サーチ、インク)
代表取締役 石塚 しのぶ氏
米国では、誰もが知っているという靴のネット通販会社“ザッポス(Zappos.com)”
ザッポスで靴を買うと、送料は行きも帰り(返品)も無料、365日返品OK!と、これまでの流通業界の“常識”を覆してきたというが、それは、コンタクトセンターにおいても日本では通常考えられない“常識外れ”だった……。
今回、“ザッポスの奇跡”の著者でもあり、Dyna-Search, Inc.(ダイナ・サーチ、インク)代表取締役の石塚しのぶ氏が来日するという事で、ザッポスについて話しを伺う事ができた。
■■それでは、ザッポス社との出会いについて聞かせて下さい。
2008年5月に開催されたソーシャル・メディア系のカンファレンスで、ザッポス社CEOトニーシェイのスピーチを偶然聴く機会があったことがきっかけになりました。私は、1982年にアメリカでダイナ・サーチという会社を設立し、「異文化間ビジネスにおける価値創造」をビジョンに、アメリカの優良企業の研究や、業界調査、分析、そして、日米間ビジネス・プロジェクトの企画立案といった仕事をしてきました。そういった仕事柄、これまで色々な会社を見てきたわけですが、このような衝撃を受けた会社は、ザッポスが初めてでした。
先に述べたカンファレンスで、トニー・シェイのスピーチを聴いた時、「これは面白い」と直感的に思いまして、ランチの時に、「是非御社を訪問させて欲しい。もっと詳しく話を聴きたい」とお願いをして、それから2週間後くらいにラスベガス郊外にあるザッポスの本社に実際にお邪魔させていただいたのです。そうしたら、これが、非常に変わった会社である。なんといっても、社員の人たちがものすごく生き生きして、活気に溢れている。私も、これまでいろいろな会社を見てきましたが、今まで見たこともないような、ある種特異な会社だったのです。そこで、ますます興味が増して、「これはもうちょっと深く研究してみなくては」と、そこで再度シェイさんにお願いをして、今度は1週間ほど、朝から晩までザッポスの会社内に入り浸りで、密着取材をさせてもらいました。経営陣の方だけではなく、コンタクトセンターで働いている一般社員の方に至るまで、実にたくさんの人をインタビューしました。そうして、『ザッポスの奇跡』を書くに至ったわけです。
私が、『ザッポスの奇跡』を書きたいと思った理由のひとつは、実は、ザッポスを通して学んだことが自分の会社にも非常に役に立ったからなのです。私が学んだことを本にまとめて、少しでも多くの皆さんに読んでいただくことによって、日本の企業がもっと元気になり、もっと幸せな社会を築くことができる、そんな貢献ができるのではないか、と思って、『ザッポスの奇跡』を書きました。

■■創業10年足らずで年商10億ドル突破、リピート顧客率75%、新規顧客の43%は口コミ。
また、米Fortune紙の働きたい企業ランキング15位(2010年)、全米小売業協会には、「最も革新的な小売業者(2010年)」に選ばれるなど、どれをとってもまったく驚くべき記録の数々だと思うのですが、一体、ザッポスという会社は、他のネット通販会社と何が違うのでしょう?

石塚:ザッポスでは、「至上の顧客サービスとエクスペリエンスを提供する」ということを長期的なビジョンに掲げて、「どんな会社(企業文化やコア・バリュー)をつくるか」という事にフォーカスをあてれば、顧客、社員、取引先、そして最終的には投資家に幸せを届けられると考えています。
その為、彼らは、自らを「たまたま靴の販売からスタートした“サービスカンパニー”」と位置付け、サービスを中核とした“企業文化”を築いています。
これまで、“サービスカンパニー”というと、リッツカールトンのようなホスピタリティ業、そして、ディズニーなどのエンターテインメント業では語られてきましたが、ザッポスは「ネット通販業」であるにも関わらず“サービス”を売り物にしているという点で特異な存在です。
そして、ザッポスでは、ただ、「良いサービス」を提供するというのではなく、「WOW(驚嘆)のサービス」を提供することを、価値観の中核に置いているのです。
■■WOW(驚嘆)のサービスとは?
石塚:WOW(驚嘆)のサービスの要素のひとつは、サービス・ポリシーです。例えば、今では「常識」となりつつある、送料は行きも帰り(返品)も無料、365日返品OK、というのもザッポスがやり始めたことです。
元来、靴はリアル店舗で試着しフィット感などを確かめて購入するかどうかを決めるものです。ですから、消費者としては、靴をネットで購入する事自体に抵抗があります。しかし、ザッポスは、こういった「常識」を覆してしまったのです。また、ザッポスのコンタクトセンターも、言ってみれば「常識破り」なことばかりです。
■■ザッポスのコンタクトセンターについて聞かせて下さい。

石塚:通常、多くのネット通販業者が、電話による顧客対応を「コスト浪費」と捉え、フリーダイヤル番号をひた隠しにする中、ザッポスは、全ページ左肩に堂々と表示し、365日24時間体制で、コンタクトセンターを運営しています。
それだけではなく、ザッポスのコンタクセンターには、マニュアルも、トークスクリプトも、売上ノルマもなく、生産性の指標として処理時間を測るということもしません。顧客に触れる個々の社員が、あくまで、ひとりの人間として、一人ひとりの顧客と向き合う…。長いときには、ひとりの顧客に対し、4時間も会話をしていたという事もあったそうです。
顧客が求めている商品がザッポスに無ければ、競合であろうとも連絡先を教えてあげるのは当然。また、ある日、ザッポスの役員が旅先で、お客を装い、夜中に滞在先のホテルにピザを宅配してくれるお店の電話番号を聞いてみたそうです。すると、嫌な顔ひとつせずに答えてくれたそうです。
(ザッポスイメージ動画)

■■まさにWOW(驚嘆)ですね。何故、そこまでCEOトニーシェイは顧客サービスに重点を置いているのでしょうか。

石塚:ザッポスではコンタクトセンターを年中無休で、24時間休みなく運営しているわけですが、実は、コンタクトセンターを通して受注されるのは全体の売上のわずか5%なんです。この数値だけを見て、「売上」対「コンタクトセンター運営費」ということで考えると、「コストの浪費だ」ということになってしまうかもしれないんですが、ザッポスにとっては、コンタクトセンターは決して、「コスト・センター」でなく、あくまで「プロフィット・センター」なんです。それは、ザッポスが、「リターン」ということを短期的な目で見るのではなくて、長期的な目で見ているからだと思います。つまり、個々のお客様に一貫して優れたエクスペリエンスを提供することによって、一度お客様を掴んだらその人の心をとらえて離さない、ということを、ザッポスは狙いとしているのです。
ザッポスのコンタクトセンターでは、「お客様の方から進んで電話をしてきてくれるなんて、素晴らしいじゃないか」という意気込みで対応に臨んでいるので、そういった姿勢からして、「コスト・センター」の位置づけではないのです。WOW!のエクスペリエンスを提供すれば、お客様はそれを友人や知人に話してくれる。そしてそれが、新規顧客の獲得につながる、そう考えているのですね。
私は、「個の無限大」の時代と呼んでいるのですが、ウェブ時代は、「個」の力が非常に強力になっている時代だと思います。ブログを見ても、SNSを見ても、ひとりの人が発信することが、何千、何万という人に伝わる潜在性をもつ時代になりました。「個」の顧客の背後には、「無限大」の顧客がいるということを、ザッポスはとてもよく認識している会社だと思います。
今の時代、ブログやSNSを通じて、「良いこと」も「悪いこと」も大勢の人に瞬く間に伝わってしまいます。どの企業も、それは認識していると思いますが、では、企業としてどう取り組みを変えるのか、と実践を考えるところでしりごみをしてしまっている。例えば、売上の5%しか電話での受注がないのに、どうやって24時間コンタクト・センターに人を置いておけるのか、という考え方になってしまうわけですね。でも、そこで、ザッポスは信念を貫いて、「お客さんが電話をかけたい時にいつでも電話できる」という仕組みをつくっている、そこがすごいと思います。
■■なるほど。WOW(驚嘆)のサービスがWOM(口コミ)を産む。それは、ザッポスの社員一人ひとりが、ブランド伝道者であるという事ですね。
石塚:今日、生活者のライフスタイル基盤が、どんどんウェブに移行しています。つまり、生活者がみんな、ミクシィのようなSNSを使ってコミュニケーションをとるようになったり、ブログやツイッターで発言するようになったりしてきているわけですが、そういった状況の中で、ザッポスではこれらのウェブ上のコミュニケーション・プラットフォームに社員が自ら出ていって、お客さんとコミュニケーションをとっていくことを大いに奨励しています。いまどき、コンタクトセンターでお客さんから苦情や問い合わせが来るのをただ待っているのではなくて、ウェブ上で何が話されているのかということに企業が積極的に耳を傾け、困っているお客さんや、問題があったことに対して苦情を言っているお客さんがいたら、こちらから手を差し伸べていく、ということが、技術的にも可能になっていますし、そういった行動が求められる時代になってきているのです。
そのために、ザッポスでは、企業文化の育成と維持を通した、会社全体での価値観の統一に並々ならぬ力を注いでいます。そのひとつが採用です。例えば、ザッポスでは、一般の企業で問われる「知識や経験、技能」といった、「スキル・フィット」に加えて、「文化適性(カルチャー・フィット)」ということを、とても重視しています。つまり、どんなに知識や経験、技能の面で優れた人でも、文化適性がない、ザッポスの文化に合わないという人は決して雇いません。
また、新入社員のトレーニングでは、コア・バリューの刷り込みを徹底的に行います。そして、「採用辞退ボーナス」というのがあって、もし、トレーニング中に、ザッポスのカルチャーに合わない人がいたら、ボーナスを払うから採用を辞退してください、という制度まであるのです。私が本を書いた時は2,000ドルだったのですが、今はそれが3,000ドルになっているらしいです。これはとっぴでもないことのように聞こえるかもしれませんが、企業にとっては、文化に合わない人が働いているより、3,000ドル払ってでも辞めてもらったほうがずっとリスクが小さいのです。
■■未曾有の不況下、日本に置いても、好調だったネット通販が頭打ちと言われはじめてきております。今後、一体何が求められてくるのでしょうか?
石塚:昨年、ザッポスを買収したアマゾンをはじめとして、ネット通販会社は、やはり、テクノロジー主体でものを見ているところが多いと思うのですね。テクノロジーを基盤としたシステムをつくりこんで、最大限の効率化を図る、そこを優位性と考えているところが多いと思います。しかし、ザッポスは、ネット通販の会社であり、非常に洗練されたテクノロジーを駆使しながらも、あくまで「人」主体のサービスに焦点を置いている、そこが、ザッポスの独自性であり、優位性になっていると思います。
今後は、感情価値や感動体験の提供が競争の決め手になってくると思います。モノが不足していた時代には、商品そのものが売り物になっていました。やれ、冷蔵庫ができた、といえば、みんなが喜んで冷蔵庫を買いに店にやってくる、という時代があったわけですが、今は、冷蔵庫といってもいろいろなブランドが出回っているし、消費者に選択肢ができてきたわけです。そして、90年代になると、インターネットが出てきて、今度は、ブランドが選べるだけではなくて、どこから買うか、をお客様が自由に検索して、選ぶことができる時代になりました。すると、お客様の期待度というものがどんどん高度化してきます。商品に対する期待度が満たされてきたときに、次に、何が起こったかというと、サービスに対する期待の高度化です。だから、アスクルのように、「今日オーダーした商品が明日届く」ということが、売り物になり、差別化の要因になったわけです。しかし、最近では、それもどんどん当たり前になってきて、今度は、「今日来る」、つまり、同日配送サービスみたいなものも始まっています。でも、それも永遠に差別化につながるわけではありません。
今の時代はというと、今度は「体験」が売り物になってきているのです。私は、これを、「感情価値経済」と呼んでいるのですが、お客様にとって、お店で、どんな気持ちにさせてくれるか、が重要になってきている。せめて、いやな気持ちをしてまで買い物をしたくないとみんな思っているのです。だから、お店に行っていやな気持ちにさせられるぐらいだったら、ネットに行って、誰とも顔をあわせずに買い物をする、そのほうがいい、とお客様が考える時代になってしまっているのではないでしょうか。そういった消費者心理、これからの時代に、お客様が何を望んでいるのかを、ザッポスはとてもよく捉えていると思うのです。
■■最後に、トニー・シェイとは一体、どの様な人物なのでしょうか?
石塚:もの静かで、正直で、オープンで、控えめで、少しも威張ったところがない人です。そういった中にも、芯の強さがあって、行動派で、自分の信じることをどんどん実行に移す。そして、猛烈な勉強家ですね。また、傲慢な人は嫌いです。
そして、トニーを支えている経営陣が、実行力と創造力に溢れた、極めて優秀な人たちです。何でも、自分たちでやってしまいます。トレーニング・プログラムも、外部のコンサルタントに頼るのではなく、自分たちでつくってしまったり・・・。ザッポスでは、そういった自主性や創造性が何よりも重んじられています。会議室の内装というのも、社員の手作りなんですが、それは、有志の社員がやるんですね。「個」が感性や創造性を発揮することこそが、会社の強さだと信じて、ザッポスではそれを奨励している、それが、ザッポスの独自性であり、優位性だと思います。
(聞き手 大城 敏也)
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石塚 しのぶ Dyna-Search, Inc.(ダイナ・サーチ、インク)代表取締役 Shinobu Ishizuka 日米間ビジネス・コンサルタント Dyna-Search, Inc.http://dyna-search.com/j/index.html 1972年、南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程卒業。その後、コニックスバーグ・インストゥルメント社において、NASAプロジェクトのプログラム・マネージャーを担当、プロジェクト・マネージメントのスペシャリストとして経験を積む。1979年、カリフォルニア州認定技術士のライセンスを取得。1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、Dyna-Search, Inc.をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米国優良企業、業界の研究レポートを数多く手がける傍ら、アグレッシブな成長を目指す先進的日本企業をクライアントに、コンサルティング業に精力的に従事。 twitter:http://twitter.com/s_ishizuka ブログ:http://www.dyna-search.com/j/book/ |







