アナリティカルCRM
「アナリティカルCRM」では、「コンタクトセンター」に蓄積された全ての顧客接点における情報をもとに「顧客インサイト」を分析します。

■顧客インサイト
前回は日常業務の遂行を担当する「オペレーショナルCRM」には、「マーケティング」、「セールス」、「サービス」(以上3つを「顧客ライフサイクル・マネジメントプロセス」と総称)、「コンタクトセンター」という4つの要素があり、「コンタクトセンター」は他の3つの要素で収集された顧客情報を一元的に管理する役割であることを説明しました。統合CRMの次の要素は、「アナリティカルCRM」です。「アナリティカルCRM」の役割は「顧客インサイト」の分析です。
「顧客インサイト」とは何でしょうか。「インサイト」は英語では「Insight」と表記され、「洞察」つまり「物事をよく観察して、その本質や奥底にあるものを見抜くこと」という意味です。
そのことを踏まえ、「顧客インサイト」を「顧客ニーズの深い洞察あるいは洞察の結果得られた真のニーズ」と定義します。
この「顧客インサイト」の分析を行うに際し、極めて重要な役割を果たすのが「コンタクトセンター」です。言うなれば、コンタクトセンターは、全ての顧客接点における情報を集め「顧客インサイトの分析」というプロセスに流し込むための「漏斗(じょうご)」なのです。
■目的と手段
「顧客ニーズの深い洞察あるいは洞察の結果得られた真のニーズ」という顧客インサイトの定義はやや難解な文章であるため、重要な点を「目的」と「手段」という枠組みに照らして整理してみます。
ある顧客がある会社の製品の購入を検討しているとします。その顧客がその製品を欲しいと考えていることは事実ですが、より大事なのは何のためにその製品を欲しいと考えているかです。
つまり、その顧客はある「目的」を達成するための「手段」として、その製品の購入を検討しているはずなのです。
顧客が一般消費者の場合は、生活や趣味における何かしらのニーズを満たすという「目的」、顧客が企業の場合は何かしらの経営課題を達成するという「目的」が存在し、その「目的」を達成する「手段」としてある「製品」の購入を検討しているのです。
表面的な顧客の行動しか見ない企業と、その背景にある「目的」を深く考える企業の、どちらがより顧客の心をつかむ新製品を開発する可能性が高いでしょうか。答えは火を見るより明らかです。
表面的な顧客の行動しか見ない企業は、目の前の「売れた、売れない」に一喜一憂するだけですが、「目的」を深く考える企業にとっては、「売れた、売れない」は、仮説検証サイクルの中の重要なフィードバック情報となり、着実に成功に向けて歩を進めることができるのです。
■VOC
ちなみに、「顧客インサイト」と似た言葉に「VOC」という言葉があります。「Voice of Customer」の頭文字をとったもので、文字通り「顧客の声」という意味です。
この言葉もよく使われますが、「顧客インサイト」と同じような意味で使われますので、どちらの言葉を使っても構いません。
言葉は大事ですが、必要以上にこだわると本質が見えなくなります。要するに、表面的な顧客の行動の背景にある「本当に顧客が求めているもの」という意味が重要なのです。
■アナリティカルCRMとBI
IT業界はカタカナやアルファベットが多く、業界に身をおく筆者でさえも時々面倒になりますが、「アナリティカルCRM」と「BI」は両者の関係が分かりにくいため、この場を借りて整理してみます。
まず「BI」ですが、「Business Intelligence」の頭文字をとった言葉です。日本語でもそのまま「ビジネスインテリジェンス」または「ビーアイ」と呼ばれます。
BIとは、「ERP、SCM、CRM等の業務システムのデータを分析・加工して、企業経営に役立つ知見を見出す仕組み」と定義することができます。
要するに業務システムの種類によらずそのデータを分析・加工するのがBIなのです。
一方、「アナリティカルCRM」は、情報ソースがCRMシステムに限定されます。つまり、BIの一部がアナリティカルCRMであると整理することが適切だと考えられます。
■アナリティカルCRMのアウトプット
アナリティカルCRMのアウトプットは次の3種類です。
①レポート
一番シンプルなアウトプットです。「マーケティング」、「セールス」、「サービス」という顧客ライフサイクル・マネジメントプロセスの状況を明らかにし、各プロセスを改善するための問題点を把握します。
②分析
顧客や製品・サービスを、ある切り口やフレームワークによってセグメンテーションし、対象セグメントの特徴や経営における重要度を把握します。例えば売上や利益への貢献度によって顧客や製品・サービスを分類し、各セグメントの対応方針を決定します。
③データマイニング
データマイニングとは、大量データを処理し、隠れた関係性や意味を見つけ出す知識発見の手法です。膨大なデータを鉱山に見立て、そこから未知の知見や規則性という鉱石を発掘する(マイニング)というのが名前の由来です。
従来の分析手法が「仮説の設定」→「データの分析」→「仮説の検証」という流れのいわゆる「仮説検証型」で進められるのに対し、データマイニングは「データの分析」→「仮説の発見」→「仮説の検証」という「仮説発見型」の流れで進められることが特徴です。
■おむつとビール
データマイニングの有名なエピソードとしては、アメリカの大手チェーンストアのおむつとビールの話が挙げられます。
そのチェーンストアが自社の購買データを分析したところ、週末におむつとビールの併買率が高いという傾向が分かりました。そして、実際に店舗で観察したところ、週末に奥さんのおつかいでおむつを買いに来たご主人が、ついでにビールを買っていくという行動が明らかになったそうです。
その観察結果を踏まえ、その店舗では、おむつとビールの棚を隣同士にしたところ、両商品の売上があがったとのことです。
このエピソードにおいて、おむつとビールの併買率が高いという分析結果を得たことは「データの分析」に、分析結果の裏にビジネスに役立つ何かしらの消費者の行動があるのでないかと考えたことは「仮説の発見」に、店舗を観察して顧客の行動を明らかにしたことは「仮説の検証」に相当します。
おむつとビールのエピソードは、最初に仮説ありきではなく、まずはデータを分析してみて、その分析結果から仮説を発見し、その仮説を検証してビジネスに役立つ知見を得るという「仮説発見型」のアプローチで進められるデータマイニングの好例と言えます。
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三浦直樹 イーシステム株式会社 常務取締役 慶應義塾大学理工学部卒。 アクセンチュアに約10年在籍後、ITベンチャー企業の取締役社長室長として同社を上場まで導く。2007年にCRMのリーディングカンパニーであるイーシステムに入社し、常務取締役として名刺管理サービス「アルテマブルー」事業の責任者とマーケティング担当役員を兼任。 詳細はこちらから 【最新の記事】 [2010.04.14]第6回:顧客中心主義の企業文化への昇華 [2010.03.19]第5回:顧客インサイトの経営への反映 [2010.02.23]第4回:アナリティカルCRM |
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